アメリカ版2ちゃんねらーが熱狂する「Qアノン」現象の恐怖 カギとなるのは「秘数17」 Ⅱ

地球温暖化も、左翼のでっち上げだ

どうして、少なからぬ米国民がこのような陰謀論を信じるのでしょうか。なぜ「Q現象」が起こったのでしょうか。それには種々の要因があります。

まず、既存の権力者に対する不信感です。先ほど触れたように、「Qアノン」は民主党と小児性犯罪を執拗に関連づけようとしています。

これには伏線があります。2015年、共和党の下院議員デニス・ハスタート氏が、1970年代に高校でレスリングを教えていたとき、生徒に対して性的虐待を行っていたことが発覚しました。米国民にとって、連邦下院議長まで務めたハスタート氏の悪行が明らかになったのは衝撃的でした。

このことによって、党派に関係なく、「政治家は小児性犯罪者だ」というイメージが一部で醸成されました。そして、やがて「クリントン氏やオバマ氏、有力な民主党議員が小児性犯罪の組織と結びついている」というデマが生まれたのです。

米国社会の分断も大きな要因になっています。その萌芽は、オバマ政権時代からありました。

例えば、筆者が2012年の米大統領選挙の際、南部サウスカロライナ州チャールストンに住む保守系市民団体「ティーパーティー(茶会)」の活動家に、地球温暖化についてインタビューしたとき、彼は「地球温暖化は、リベラルのでっち上げだ」と述べていました。

社会の分断が進むと、社会悪や自分にとって不都合な事象の背後に、なんらかの陰謀や策略が存在するのではないか、と懐疑的になる人が増えるのです。トランプ政権後に加速した米社会の分断が、Q現象の土壌を作ったと言えるでしょう。

“8chan”に書き込まれたQの投稿

メディアに対する米国民の不信感の高さも要因です。世論調査会社ギャラップの調査(2018年6月20日発表)によれば、62%が「新聞、テレビ、ラジオの報道は偏向している」、44%が「不正確である」と回答しました。

不都合な事実を「フェイクニュース」と呼び、「報道の裏には、常にメディアの陰謀・策略がある」という印象を与えるトランプ大統領の手法は、周知の通り一定の成果を得ています。

一般に、陰謀論を信じやすいのは社会的弱者や、権力を持たない人々とされています。2016年の米大統領選挙の際、筆者がアイオワ州で戸別訪問したトランプ支持者の退役軍人は、「不法移民が職を奪っている」とかたく信じていました。

実際に(不法移民が原因ではありませんが)、白人労働者の中には企業の海外移転や業務のIT化で、仕事を失った労働者が少なくありません。彼らは「移民受け入れに賛成するリベラル連中や、自由貿易推進派のグローバリストの陰謀に、自分たちは搾取されている」と認識しています。

トランプ大統領は、こうした支持者の心理状態をきわめて巧みに把握しているのです。